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November 17112008

 葱買ひにゆくだけのことペダル踏む

                           フレザー文枝

りたてて上手な句ではないし、ましてや凄い句でもない。でも私が着目したのは、ほとんど習慣になっている自分の行為を客観視してみたところだ。葱であろうが大根や人参であろうが、それを買いに行くのに自転車を使う。そういうことは多くの人が日常的にやっていることだし、何の変哲もないことではあるのだけれど、作者はペダルを漕ぎながら、多分ふと自分はいま、何のために自転車に乗って急いでいるのだろうかと思ってしまった。たかが葱二三本を買うために、一生懸命ペダルを踏んでいる自分をあらためて意識してみて、なんだか可笑しいような不思議なような気分になっているのである。人はふつう、自分の行為をいちいち見張るようにして生きているわけではない。とくに習慣や癖などについては、無自覚であるのが当たり前だろう。しかしこの句のように、その無自覚な部分に自覚の光を当ててみると、なかなかに面白い発見やポエジーが潜んでいないとも限らない。案外、揚句の視線は句作りの盲点かもしれないと思ったのだ。作者は故人。片仮名の姓は、夫君がアメリカ人だったことによる。句集は娘さんが「ママ、あなたの句集ですよ」と纏めたものである。『バラ百本』(私家版・2008)所載。(清水哲男)




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